仙台市南部にある市立上野山小学校の授業を紹介します。5年生は27名(授業者は尾張有香先生)がはじめてのプレゼンテーション制作に挑戦しました。プレゼンの制作そのものはパソコン室のPCに入っている「発表名人」(ジャストシステム)を使用。ipadは8つのグループに1台ずつ配布し、プレゼンのコツをいつでも確認できるようにしました。宮城県には2011年にセントラル自動車の工場ができ、上野山小の子どもたちも見学にいってきました。そこで見つけたさまざまな工夫や秘密をプレゼンテーションにまとめていきます。
■授業のようす
拝見した授業は14時間の単元のうち12時間目。ここまで自動車の広告調べや、NHK学校放送番組「社会のトビラ」のクリップ視聴、パンフレット、工場見学とさまざまな情報収集をしています。プレゼンづくりの3時間目の本時までに、グループごとに絵コンテの制作やスライド制作を進めてきました。テーマは生産工程の工夫、人にやさしい車、消費者のニーズに応える工夫などさまざま。本時は、ここまでつくってきた作品をつくつた教材をつくって見直す場面です。
授業の導入では、ここまで制作してきた2つのグループの作品を紹介するところからはじまりました。販売台数のランキングの表を使ったり、教科書の写真を切り抜いて用いるなど、それぞれに工夫があります。ここで尾張先生は「わかりやすく伝える」にはどんなことが必要かたずねました。くわしくする、資料をそのまま写さず工夫する、図や写真を使うといった意見がでました。でも、具体的にどうするとわかりやすいかイメージをもつのは難しいもの。そこでつくつた教材の登場です。
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一通り観点を確認した後、ワークシートを見ながら、自分たちの作品の自己評価をしていきます。尾張先生オリジナルのレーダーチャート型のワークシートです。左側に4つの観点についてSABCの基準を、右側には、なぜそう評価したのか、どう改善したいのかを書く欄があります。グループで話し合いながら「文字が小さすぎるかな?」「例があるともっとわかりやすいんじゃない?」「写真の選び方がよくないかも?」といったことに気付いていきます。
改善作業に入る前に、尾張先生からもう1つ提案が。わかりやすくするために「表・地図・グラフ」を用いること。社会科ならではのアドバイスです。プレゼンの基本はつくつた教材で、教科として指導したい点は授業者がしっかり伝える、そんな連携が見えてきます。子どもたちはさっそく写真を選び直したり、文言を付け足す、言葉を書き足したり、箇条書きにするなど、改善作業を進めていきました。
授業のまとめでは、つくつた5箇条を紹介し、今日までの活動を振り返りました。見つけたプレゼンの改善点をどんどん直して仕上げたい!そんな期待感を持って本日の授業は終了しました。
■その後の授業は?
その後の様子も取材してきました!プレゼンの仕上げにもう1時間かけた後、いよいよ発表へ。その練習にもつくつた教材が活躍します。プレゼンの「伝える」パートには「話す」と「質問」があります。この「話す」教材を使って話し方を練習します。目線、声の大きさ、話す速さといった基本を確認しつつ、伝えたいことが伝わるように練習しました。そしてここでもipadが活躍。話している様子をipadのビデオ機能で動画で記録してその場で振り返り!自分たちの姿を客観的に見ることで、改善点にどんどん気付いていったようです。発表会では、自分たちで改善したプレゼンを使ってイキイキと伝える子どもたちの様子が見られました。発表を聞いて考えるワークシートでの「日本にとって、自動車産業はどのような存在だと思いますか?」「10年後、どんな車を買いたいですか?」では、自動車産業の大切さ、環境や安全を大切にした車づくりといったところに気付くことができました。たくさんの情報を集めてきた子どもたちだからこそ、自動車産業についての子どもたちの気づきも多様になります。調べたことを伝え合うことで、より深く課題に迫っていく、資料活用を重視した授業につくつた教材はお役立ちできたようです。
■授業者からのコメント
子どもたちはプレゼンを作成するのはまったく初めての経験で、どういったものを作ればいいのかサンプルのイメージがなかったところに、つくつた教材が役立ちました。「紙芝居」のイメージで写真と大きな文字だけでほとんど説明がなかった児童が説明を付け足すことに気付いたり、写真を入れ替えたりといった姿が見られました。つくつた教材を見る場面では、もっとワイワイなるかと思いきや、真剣に見入っていました。どこをどうしたらよりよいプレゼンになるのかヒントを懸命に探していたようです。社会科の授業として大事にしたいことと、プレゼンづくりの際に指導したいことのバランスをどう取るべきか、授業をつくりながら悩みました。今回は、プレゼンづくりの大事なところはつくつた教材を中心に使い、社会科の視点として地図や表・グラフの活用を促してみました。今後の発表場面でも話し方の工夫については、つくつた教材を使いながらも、発表から気付いたことや学んだことは、社会科として単元のねらいにせまっていけるような展開を工夫したいと思います。(尾張有香・仙台市上野山小学校)。
■研究者からのコメント
尾張先生へのインタビューからは、教科指導の中でつくつた教材を使うメリットと課題点が明確に見えてきました。つくつた教材があることでプレゼンをどうよりよくしたらよいかを考えることができます。ところが、プレゼンとしての良さばかりを追い求めすぎてしまうと、社会科の授業というより、国語の時間になってしまいます。ここで考えるべきは子どもたちのメディア制作体験の積み重ねです。今回、まったく初めての子どもたちだったのでつくつた教材から学ぶ場面が多くなりましたが、こうした活動に慣れているのであれば、つくつた教材は紹介程度にして、社会科の授業としての内容の指導により専念できる可能性があります。それこそ国語の時間や、総合的な学習の時間などで多様な「つくって伝える」経験を積み重ねておくことで、教科での情報活用をスムーズに、より深くすることができます。なお、ipadは普段の授業でも活用されているとのこと。国語の授業で調べたいことがあるとき、まず辞書で調べ、さらにわからないときにさっとipadで調べてみたり、都道府県のクイズなど、普段のメディア活用経験が、本時ですんなりipadを使い、パソコンでプレゼンづくりに取り組む子どもたちを支えていることを実感しました。(稲垣忠・東北学院大学教養学部)。