大阪府高槻市にある関西大学初等部の1年生を担任する山中昭岳先生は、生活科で「あたらしい1年生にビデオレターをおくろう」という単元を設定しました。新年度に入学してくる新1年生を相手に、自分たちの学校を紹介します。春に取り組んだ学校探険のことも思い出しながら、伝えたいことを考えます。教頭先生からの「ミッション」として、実際に入学説明会で使用することを伝えることで、子どもたちは張り切って撮影に向かいました。
■授業のようす
ビデオ撮影に使用したのはipadのビデオカメラ。機能がシンプルで1年生でも簡単に撮影することができます。伝えたい「ひと・もの・こと」は、学校の図書室、警備員さん、近くを走る電車など。ビデオで撮る前に、何を撮りたいのかしぼりこむために、まず写真から。撮りたいものを集め、教室に戻って3つにしぼりこみます。さらに、グループで撮りにいってもipadは1つ。役割分担を考える必要があります。 つくつた教材の中ではアナウンサー役の人がいたので、それを真似てみることに。他にもどんな役割の人がいるかたずねてみると「カメラマン」「かんとく!」といった声があがります。もう1人をアシスタントさんとして4人チームができあがりました。2回目の撮影でも随分と撮り方に変化があったとのことでした。
出てきた反省点は「いらない音がはいっていた」「何を写しているのかわかりづらい」「ブレていた」「いらないものが写っていた」「近づいてなかった」といった直したいところとともに「アップでとれていた」「せりふを上手にいえた」などよかったところも。Sをつけたグループの作品を電子黒板に写し、どうしてSと思ったのか、どういうところがよいのか共有します。
次の時間、これまでの活動を振り返るところから授業再開です。撮影の計画書(絵コンテ)を書いたこと、つくつた教材を分析して見つけた撮影の「わざ」、何より、新1年生にどんな気持ちになってもらうためにビデオレターをつくるのか再確認しました。目的やポイントが明確になったところでグループで作戦会議へ。次の撮影に向けてどんなことを気をつけたらいいのか話し合います。
話し合いが終わったところから撮影へ。グループの役割分担、カメラの距離や話し方、さまざまな工夫をしながら、伝えたいことにしぼって、撮影うまくできたかな? 見学できたのはここまで。この後、単元では撮影してきたビデオをつなげてビデオレターをつくり、1月には新1年生にお披露目するとのこと。完成が楽しみですね!
■授業者からのコメント
1年生でビデオ制作がどこまでできるのか不安もありましたが、つくつた教材とipadで思った以上に取り組むことができています。通常、ビデオ制作では撮影の仕方、台本、役割など決めてから進めていきますが、1つ1つがどんな意味があるのか実感しないと1年生で相談するのは難しいと考え、通常とは逆の順番、つまりまず撮影を楽しみ、うまくいかないことに気付かせながら、必要なことを子どもたちと相談しながら進めています。繰り返し撮影に行くことで、警備員さんを含め校内のさまざまな方と関わる機会にもなっているようです。つくつたのルーブリックの言葉は1年生には難しかったので、みんなでサンプルを分析してみたところ、自分たちのビデオに足りないことにたくさん気付かせることができました。4段階あることでどこが変わったのか、注意深く見ることができたようです。1年生でこうした経験をしておくことができれば、上の学年に進んだときにもっと質の高い活動ができそうです。その時にはまた、つくつた教材とともに、今回つくった作品を見せてみたいと思います(山中昭岳・関西大学初等部)。
■研究者からのコメント
山中先生の授業では、つくつたの「つた」の部分、つまり伝える相手を明確に持つことの大切さを実感しました。新1年生にどんなことを伝えたいのか、教頭先生からのミッションという「壁」を設定することで、単にきちんととれた映像をつくるための活動ではなく、伝えたいことを意識した学習活動へと深まっていきました。今回気付いた教材の課題点として、「どのようにしたらそのように撮影できるのか」はサンプルからは分からないことがあります。ブレないためにどう構えたらよいか、音をちゃんととるにはどんな距離で、どのくらいの声で話したらよいか、といった考えるきっかけは与えられるけれど、具体的にどうすればよいかは子どもたちが見つけるか、教師が指導する必要があります。実際、子どもたちはいろいろ試しながら、脇を閉めてもつことや、声の大きさに気付いたようです。撮影したその場で確かめられるタブレットとのセットが、子どもたちの試行錯誤を促していたことがわかりました(稲垣忠・東北学院大学教養学部)。