情報活用型プロジェクト学習

1.情報活用型プロジェクト学習とは?

情報活用型授業の考え方をベースに、探究的な学びを軸にしたプロジェクト型の単元設計を「情報活用型プロジェクト学習」として提案しています。このページでは、情報活用型プロジェクト学習に関する情報・資料を公開していきます。学習の基盤としての情報活用能力をどう育成するか、そのヒントになれば幸いです。

単元の基本的な流れは下図の通りです。収集→編集→発信の流れは情報活用型授業と同じです。収集場面では豊かな情報から読み取る機会を、編集場面では教科の見方・考え方をいかしながら思考・表現すること、発信する場面では伝える相手を明確にします。前後にこの一連の流れの前に課題を設定し、最後に評価が加わります。全体を囲むのが「プロジェクトのミッション」つまり、子どもたちが何を目指して学ぶのかを定めます。単元の長さは数時間でおわる場合もあれば、一ヶ月、数ヶ月を通したプロジェクトもあるでしょう。年間を通じたプロジェクトの場合、このサイクルを何度か繰り返すことになります。

2.単元デザインシート

情報活用型プロジェクト学習では、単元ベースの授業づくりをします。以下のような単元デザイン用のワークシートを使います。単元をデザインする上でポイントになる要素を紹介します。

(1)4つのゴール

単元を構想する最初に以下の「4つのゴール」を明確にします。これらが相互に矛盾がないか点検することで、児童・生徒にとって意味のある本気の活動であり、かつ単元の学びとしても深まる学習になります。

  • 教科・単元のねらい:教科の単元としてプロジェクトに取り組むのであれば、単元の本質的な学習目標を外すわけにはいきませんね。教科書の単元をみるとプロジェクトにしやすい単元はいくつもあります。まずは既存の単元を発展・深化させる方が取り組みやすいでしょう。
  • ミッション:ミッションは、児童・生徒が何を目指して学習活動に取り組むのかを具体化したたものです。たとえば「1年生に磁石で動くおもちゃであそんでもらおう」「我が家の献立改善策を提案しよう」「商店街の活性化計画を提案しよう」などです。これらはどれも答えが1つにならない、オープンエンドのミッションです。
  • 制作物:情報活用型プロジェクト学習では、プレゼンテーションや新聞・ポスターといった制作物を単元末に制作します。制作物に単元のねらいがしっかり反映されていれば、単元の学びとして成立しているかどうかを成果物によって判断できます。
  • 思考ポイント:単元の中でもっとも思考を働かせる、単元の山場と言える場面です。集めた情報を整理・分析する場面や、制作物で何をどう伝えるのか検討する場面が該当することが一般的です。ここに、単元の中でも思考・判断・表現にかかわる学習目標が位置づけられることで、単元の本質的な学びを学習の流れに位置づけられます。

この4つの中でイメージしづらいのが「ミッション」ではないでしょうか。各教科・単元にはそれぞれに学習のねらいがある訳ですが、それではなく、児童・生徒にとって目的意識を明確に持たせるのがミッションの役割です。このミッションをうまく設定できると、教科で学んでいることが社会や自分自身にどうつながる・役立つのかを実感できる機会にもなります。設定しやすい教科、そうでもない教科があるのは事実ですが、工夫してみてください。これまで、研修に参加された先生方が作成されたアイデアをまとめてみましたので参考にしてみましょう。

(2)思考×表現ルーブリック

情報活用型プロジェクト学習のルーブリックは、1)学習の成果物を対象に、2)思考と表現の2観点、3)SABCの4段階でつくります。以下は小学5年生、社会科の単元「私たちと食料生産」のルーブリックの例です。「食料自給率の現状について調べたことをもとに、我が家の食卓改善プランをプレゼンテーションにまとめて保護者に伝える」というミッションを想定しています。

 SABC
思考(食料問題をもとに食卓改善計画を提案する)ゴールにマッチした
情報の洗練
教科目標に応じた
情報の理解
不正確・不十分な
情報の関係づけ
情報の不足や
間違い
食料問題を多面的に分析した結果を根拠に、実現可能な提案をしている
輸出入、食の安全、食べ残し、生産者の減少など、複数の観点から食料問題をとらえ、主張を組み立てている
食料問題について1つの事実だけをもとに主張している食料問題について誤まった情報をもとに主張している
表現(プレゼンテーション資料の作成)相手・目的にマッチした表現の工夫
伝えたいことを
適切に表現
意図はあるが
適切ではない表現
意図が不明確・
未完成な表現
適切な資料を順序よく選び、受け手に効果的に伝わるようメッセージやデザインに工夫がある主張の根拠になる資料を選び、適切な順序で配列している主張の根拠になる資料を使用しているが順番が考慮されていない資料と主張の間の関連性が読み取れない

以下、ルーブリックに関するミニQ&Aです。

  • なぜ4段階?:Aが単元の到達目標のレベルで、一般的な3段階の基準と同じです。Sは到達レベルの「もう1つ上」です。プロジェクト学習の場合、プロジェクトのゴールを意識したこだわりをS基準とすることで、目的意識を明確にすることにつながります。
  • 思考と表現に分ける意義:思考は制作物に込められている内容を、表現はその姿かたちを対象とします。見栄えがしても中身のない制作物や、中身はあっても伝わらない制作物になるのを避けるために2つの観点を設定しました。社会科では単元のねらいが思考の方に、国語科では表現の方を重視するなど、教科や単元によって思考と表現のバランスは異なります。
  • ルーブリックは子どもをしばることにならない?:A基準までは子どもの学ぶ道のりを意味するもので、教科の指導としておさえるべきステップです。C基準からみたらB基準が、BからみればAが次の一歩を示すものになります。S基準は、プロジェクトのゴールに対してさまざまな創意工夫を許容できるものにしておくと、子どもが到達目標を超えて自由に思考・表現するきっかけにもなります。

(3)コア・アクティヴィティ

単元の流れは「収集」「編集」「発信」の3ステップで構成しますが、各ステップで「何を題材に」「何を指導し」「どんな学習活動を展開し」「どうその成果を確かめるのか」を書くのがコア・アクティヴィティです。授業設計の基本要素をここでカバーします。

〇「情報」

学習者が情報を集める際の手段や、編集、発信する際に取り扱う情報のことです。教科のねらいにつながる情報源を十分吟味した上で、どこまで学習者に任せるのかを実態に合わせて調節します。「見ればわかる」まで教師が整理してしまわずに、「読み解き・整理が必要」なレベルとします。「編集」場面では、調べたメモ、撮影した写真などが情報であり、「発信」段階では制作した新聞やプレゼンテーション等が情報です。「収集」段階でもっともこだわるべき要素です。

〇「指導」

学習者の活動が適切なものになるための指導事項を明らかにします。ウェブ検索であれば、検索語やサイトの信頼性、情報の新しさなどの留意点があります。国語科で新聞づくりに取り組む場合、見出しの工夫、記事の書き方、レイアウトの工夫といった事柄は、教科の学習事項として押さえるべき部分です。児童・生徒の実態をみながら、学習者に持っていてほしいスキルと、授業で指導するべき点とを明確にします。

〇「活動」

個人、ペア、グループといった活動の単位、思考ツールやICTなどの道具を検討し、学習活動を具体化します。取り扱う情報の量や範囲が明確であれば活動単位は判断しやすいはずです。道具は、集めた情報を何に記録するのか、情報を整理させる際にどんな思考を働かせるのか、発信する際に使用できるICT環境や教室環境はどの程度かを考慮します。

〇「深化」

「振り返り」は、学習者が「活動」の後、取り組んだことをどのように意味づけ、学んだのかを確かなものにするための大切な場面です。自己評価や相互評価をするのであれば、どんな観点が有効か「指導」で確認した事項をもとに設定します。アドバイスや質疑の結果、自分(たち)の次の目標や、取り組むべき課題の優先順位を意思決定させるなどの方法が考えられます。

単元シートのテンプレートを以下に置いておきます。項目ごとにおよそどんなことを書くべきか記載した例示版と、まったくの白紙のブランク版を用意しました。実際にはこれに項目を加えたり、収集〜発信までの流れをアレンジしたり、1時間ごとに区切るなど、学校ごとにさまざまな活用がされています。

3.学習活動カード・単元づくりワークショップ

プロジェクトデザインシートのエッセンスを取り出した学習活動カードを並べて単元をデザインするワークショップを開発しました。

学習活動カード

以下の21種類のカードがあります。単元によって児童生徒が探究する際に使いそうなものをまず並べます。

収集編集発信
(A)図書
(B)ウェブ
(C)インタビュー
(D)アンケート
(E)観察・実験
(F)体験
(G)表・グラフ読解
(H)映像
(I)集約
(J)比較
(K)関連づけ
(L)論理
(M)表・グラフ作成
(N)レポート
(O)プレゼンテーション
(P)新聞
(Q)ポスター
(R)動画
(S)発表
(T)質疑応答
(U)ふりかえり

カードは名刺サイズです。市販の名刺用紙にA4裏表で印刷していただければカードとして使用できます。なお、カードは両面使っていますので、ミシン目で切り離せるタイプがよいでしょう。

例えばこういうのです。

A-one マルチカード 各種プリンタ兼用紙 白無地 厚口タイプ A4判 10面 名刺サイズ

カードを並べるワークシートはこちらです。このシートをA3サイズに印刷してご使用ください(B3サイズ程度あるとベターですが、一般的なプリンタの対応上限サイズのA3でも十分です)。

プロジェクトデザインシート(カード用)

カードの下部にはそれぞれの学習活動を具体化するための問いかけがついています。付せんに具体化するアイデアを書き込み、カードに貼っていきます。

例えば校内研修でプロジェクト化する単元が決まっている場合、解説込みで90分程度あれば具体化まで含めて作成することができます。下記ルーブリックづくりまで実施すると2時間半程度は見込んだ方がよいでしょう。ワークショッププログラムの詳細は今後、何パターンかご紹介する予定です。

※各地の教育センター、学校等でのワークショップを実施しています(研究費の範囲内で自費でお伺いすることも可能です)。希望される方は本サイトの「お問い合わせ」あるいは稲垣まで、メールにてご相談ください。

4.学びの質ルーブリック&ルーブリックバンク

思考×表現ルーブリックとは別に、上記21種類の学習活動に対して熟達者〜初心者まで4段階のルーブリック「学びの質ルーブリック」を開発しました。

情報活用からみた「学びの質」ルーブリック(2017/3/26版)

授業づくりの際に活動をさせるだけでなく、活動の「質」を具体化したいとき、情報活用能力の観点からカリキュラム・マネジメントを実施していく際などにご活用ください。

※1「観点」の項目はカードの裏面と対応しています。
※2 校種や発達段階を具体的には想定していません。児童生徒の実態、単元の内容に応じて選んでみて下さい。

さらにこれらのルーブリックを作成・共有できるウェブサイトも開発中です(下記キャプチャ画像をクリックするとそのサイトを開きます)。ルーブリックの閲覧は自由にできますが、新規に作成される場合、本サイト問い合わせのところまでご連絡お願いします。

5.関連する成果の公開等

本研究に関連して学会、雑誌等で報告されているのは以下の通りです。

  • 報道
    • 教育家庭新聞 2017年6月5日号「21種類の学習カードで探究型授業をデザイン」(PDF)
  •  雑誌等
    • 稲垣忠:I便利かつ冷静に情報を読み解く, 学校図書館, 第797号, 教育時評221, p.62-63,全国学校図書館協議会 2017年3月
    • 稲垣忠: 学びの質を見極める, 学校図書館, 第796号, 教育時評220, p.48-49,全国学校図書館協議会 2017年2月
    • 稲垣忠: “本気”を引き出すプロジェクト, 学校図書館,第795号, 教育時評219, p.36-37,全国学校図書館協議会 2017年1月
    • 稲垣忠:探究の質を支える力, 学校図書館,第794号, 教育時評218, p.36-37,, 全国学校図書館協議会 2016年12月
    • 稲垣忠:情報活用能力の育成と学びのデザイン, 教育展望2016年10月号,p.17-22,教育調査研究所
    • 稲垣忠:情報の活用に着目した授業づくり, 教育展望2015年10月号, p. 28-33,, 教育調査研究所
    • 稲垣忠:情報活用能力を育む授業デザイン, キューブランド56号, p.1-6,スズキ教育ソフト 2015年6月
    • 稲垣忠:小学生の情報活用能力の課題と対応, 学習情報研究, 2015年3月号,p.18-21,
    • 稲垣忠:情報活用能力育成のための授業設計, 学習情報研究, 2014年1月号,p.22-25,
  • 論文
    • 稲垣忠: タブレット端末を活用したプロジェクト学習の設計と実践, 教育メディア研究, Vol.23(2), pp.21-32
    • 後藤康志,稲垣忠,豊田充崇,松本章代: 情報活用能力メタルーブリックのプロトタイプの評価, 日本教育メディア学会研究会論集 (42) 21-24 2017年3月
    • 稲垣 忠: 情報活用の実践力に関する評価問題の実施と評価, 日本教育メディア学会研究会論集 (42) 17-20 2017年3月
    • 稲垣 忠: 小学校教員を対象としたタブレット活用に関する調査, 日本教育メディア学会研究会論集 41 67-72 2016年7月
    • 稲垣 忠: タブレットを活用したプロジェクト学習の設計に関する調査, 日本教育メディア学会研究会論集 40 33-40 2016年3月
  • 学会発表
    • 佐藤翼・松本章代・豊田充崇・後藤康志・稲垣忠:Web上で編集・共有できる環境「ルーブリックバンク」のプロトタイプの開発, 情報処理学会東北支部研究会   2017年2月10日
    • 稲垣 忠: 情報活用の実践力に関する評価問題の作成と実施, 日本教育メディア学会第 23 回年次大会, pp.120-123 2016年11月27日
    • 稲垣忠・松本 章代・豊田 充崇・後藤康志: 情報活用の観点からみた「学びの質」評価指標の検討, 第42回全日本教育工学研究協議会全国大会論文集, p.171-174 2016年10月15日
    • 稲垣忠・松本 章代・豊田 充崇・後藤康志: ルーブリック作成・共有オンラインデータベースに関する調査, 日本教育会第32回全国大会, p.301-302 2016年9月19日

6.協力

本研究はJSPS科研費16K01123「情報活用型アプローチによる「学びの質」ルーブリックバンクの開発」(研究代表者:稲垣忠)の研究経過の一部です。豊田充崇教授(和歌山大学)、後藤康志准教授(新潟大学)、松本章代准教授(東北学院大学)とともに研究を進めております。

本研究は次に示す学校、団体等の協力のもとに進めております。感謝申し上げます。

 

 

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