情報活用型プロジェクト学習

1.情報活用型プロジェクト学習とは?

 プロジェクト型学習(Project Based Learning:PBL)は、主体的・対話的で深い学び(いわゆるアクティブラーニング)を実現する手法の一つです。児童生徒1人1人が自分の課題を持って探究する自律型の探究に対し、グループやクラスでゴールを共有し、課題解決に探究的に取り組むPBLは、総合的な学習の時間だけでなく、各教科にも取り入れやすいものです。しかしながら、プロジェクトをどうデザインしたらよいか、教科の目標との両立、探究の質を高めるスキルをどう育成するか、評価をどうするのかといったノウハウは、日本の教育課程の現状に即した形での整理は十分にはなされていません。

 そこで、教科でも実施できるプロジェクト型の単元を「情報活用型プロジェクト学習」と名付け、その設計方法を開発しました。このページでは、情報活用型プロジェクト学習に関する情報・資料を公開しています。学習指導要領で「学習の基盤となる資質・能力」に位置付けられた情報活用能力を育成するヒントにもなります。

 授業デザインの詳細や小学校・中学校・高等学校の実践事例を書籍「探究する学びをデザインする!情報活用型プロジェクト学習ガイドブック」にまとめました。また、その続編として探究の質を高める6つのポイントからさらに掘り下げた「探究する学びをステップアップ!情報活用型プロジェクト学習ガイドブック2.0」も発売しました。実践事例の実際は、以下の書籍をご覧ください。

本の表紙画像

 単元の基本的な流れは下図の通りです。収集→編集→発信の流れで単元を構成します。収集場面では豊かな情報から読み取る機会を、編集場面では教科の見方・考え方をいかしながら思考・表現すること、発信する場面では伝える相手を明確にします。この一連の流れの前に課題を設定し、最後に評価が加わります。全体を囲むのが「プロジェクトのミッション」つまり、子どもたちが学ぶ上での目的意識を定めます。単元の長さは数時間でおわる場合もあれば、一ヶ月、数ヶ月を通したプロジェクトもあるでしょう。年間を通じたプロジェクトの場合、このサイクルを何度か繰り返します。なお、探究のモデルとして学習指導要領に示されている「課題設定⇨情報収集⇨整理・分析⇨まとめ・表現」のプロセスとも対応していますが、考えを形にまとめる「表現」と他者に伝える「発信」は区別し、最後の振り返り(評価)も分けています。PBLでは、学んだ内容=学習成果をどう地域・社会・自分などに役立てられるかが鍵になります。発信相手が明確かつ魅力的なPBLであるほど、子どもたちも本気で取り組みます。

 「ミッション」について補足しておきます。各教科・単元にはそれぞれに学習目標がありますが、それではありません。「外国人観光客に○○の魅力を伝えよう」「食料自給率アップの作戦を提案しよう」といった児童・生徒にとって目的意識を明確に持たせるのがミッションです。ミッションをうまく設定できると、教科で学んでいることが社会や自分自身にどうつながる・役立つのかがクリアになります(「社会に開かれた教育課程」の実現にもつながります)。設定しやすい教科・単元、そうでもない教科・単元がありますが、いろいろ工夫してみましょう。これまで、研修に参加された先生方が作成されたアイデアの一例をご覧ください。

2.NADモデルによる単元づくりワークショップ

 情報活用型プロジェクト学習を短時間でデザインできるワークショップを開発しました。「語る」(Narrate)「分析する」(Analyze)「設計する」(Design)の3ステップで単元を作るので、NADモデルと名付けました。校内研修でプロジェクト化する単元が決まっている場合、解説込みで90分程度あればワークシートに具体的に記入するところまで含めて作成することができます。下記のルーブリックづくりまで実施すると3時間程度は見込んだ方がよいでしょう。

 ※各地の教育センター、学校等でのワークショップを実施しています(研究費の範囲内で自費でお伺いすることも可能です)。希望される方は本サイトの「お問い合わせ」あるいは稲垣まで、メールにてご相談ください。

 以下、NADモデルに沿ってそれぞれのステップでどんなことをするのか見ていきましょう。

(1)学習活動カードで探究の物語を描く(Narrate)

学習活動カードで探究の物語を紡ぐ

 単元のミッションと成果物を決めたら、まずは子どもの目線で探究の物語を描きます。26種類の学習活動カードを使ってみましょう(2019年3月に21種類から追加。8月に一部修正。2020年7月に順番並び替え)。「クラス全体」ではなく、「あるグループ」「ある子ども」を想定して、児童生徒が探究する際に使いそうなものを並べます。並べるだけでも、児童・生徒の探究過程を簡易にシミュレーションできます。できるだけ子どもの視点になりきって、どんな探究ができれば面白くなるのか、どんな探究ができれば満足できるか考えてみましょう。なお、カードはワード版もありますので、学校のカリキュラム等にあわせてアレンジしていただくこともできます(2022年7月 リンクエラー修正)

収集編集発信
(A)図書
(B)ウェブ
(C)インタビュー
(D)アンケート
(E)観察・実験
(F)体験
(G)表・グラフ読解
(H)映像
(I)集約
(J)比較
(K)関連づけ
(L)論理
(M)表・グラフ作成
(N)レポート
(O)プレゼンテーション
(P)新聞
(Q)ポスター
(R)動画
(S)発表
(T)質疑応答
(U)ふりかえり

カードは名刺サイズです。市販の名刺用紙にA4裏表で印刷していただければカードとして使用できます。なお、カードは両面使っていますので、ミシン目で切り離せるタイプがよいでしょう。印刷する際、余白がないため、自動的に縮小されることがあります。「100%サイズ」で印刷してください。また、両面印刷する際は「短辺綴じ」にすると裏表が対応します。

例えばこういう紙をご使用ください。

A-one マルチカード 各種プリンタ兼用紙再生紙 A4判 10面 名刺サイズ

普通の紙に印刷して、裁断機等で切り離していただいてもOKです。また、白紙のカードもいれてあります。上記26種類の学習活動に当てはまらないものは自作して追加してみましょう。

カードの下部にはそれぞれの学習活動を具体化するための問いかけがついています。付せんに具体化するアイデアを書き込み、カードに貼っていきます。付せんは50mm × 15mmの小型のものを推奨します。付せんが大きいとたくさん書ける分、全体を見通すことが難しくなります。カードの裏面には付せんに書くアイデアのヒントと、活動に対応する情報活用能力が書かれています(仙台市・宮城県の目標リストと対応しています)。

ポスト・イット® エコノパック™ 見出し 再生紙 7001-K 3M製品番号 7001-K

学習活動カードをカードを並べるワークシートはこちらです。このシートをA3サイズに印刷してご使用ください(2020年1月に改訂)。

単元デザインシートv4

カードとデザインシートを使う際のポイントです。カードより下の段は、次のステップ以降で使います。

  1. 単元デザインシート上段の4項目(ア〜エ)でプロジェクトの概要をつかみます。プロジェクトアイデア集などを参考にしてください。
  2. カードを並べていきます。最大10枚、最初は「課題づくり」、最後は「ふりかえり」を使います。そうすると、収集場面で「課題づくり」を含めて3〜4枚、編集の整理・分析で1・2枚、表現は1枚(2枚になることもあります)、発信場面は「ふりかえり」を含めて最大3枚で、合計8〜10枚程度になります。
  3. カードのイラスト下に「問い」が書かれています。その答えを付せんに書きこみながら活動を具体化します
  4. 収集、編集、発信の横にあるカッコ(オ〜キ)のところに「○○しよう」と一言で活動(小単元)に名前をつけましょう

記入例がこちらです。高校生物の授業で松島湾のカキをアピールする動画をつくるプロジェクトです(2019年に本学で実施した教員免許更新講習の際に作成されたプランです)。

単元デザインシートの作品例

「紙ではなくデジタルで作業したい!」という方向けに、上記カードと単元デザインシートの入ったPowerpoint版、google スライド版をつくってみました(2022年11月改訂)。カードの裏面との対応がつけられない欠点はありますが、こちらの方が手軽ですし、保存が楽という利点もあります。スライド4枚目以降の内容は次のステップ以降で使います。

google スライド版へのリンク

(2)思考×表現ルーブリックと情報活用能力の位置付け(Analyze)

プロジェクト学習は、活動としては魅力的なものであっても、ともすると活動が目的化してしまい、教科の学習として何が学べたのか分からなくなってしまうこともあります。授業設計(インストラクショナル・デザイン)の研究では「逆向き設計」というゴールから逆算して授業を考える方法がありますが、この情報活用型プロジェクト学習を設計する際にも同様の考え方ができます。つまり、プロジェクトのゴール=子どもたちが作成する何らかの制作物の質をしっかり見極め、そこに教科の学びとして十分な成果が反映されるように学習過程を充実させていくということです。

情報活用型プロジェクト学習では、この成果物を評価する方法としてルーブリックを用います。プレゼンテーションにしても、動画にしても単純に正誤や点数化できるものではありません。スライドの構成、デザイン、動画の展開、映像効果、ナレーションなど、さまざまな観点からその質を見ていくことが重要です。とはいえ、授業を設計する段階で細かな観点にこだわりすぎていても、かえって教科の目標を見失ってしまう場合があります。そこで、最低限の要素として「思考」=制作物の中身と、「表現」=制作物の見た目上の工夫の2観点にしぼった「思考×表現ルーブリック」という考え方を提案しています。

情報活用型プロジェクト学習のルーブリックは、1)学習の成果物を対象に、2)思考と表現の2観点、3)SABCの4段階でつくります。以下は小学5年生、社会科の単元「私たちと食料生産」のルーブリックの例です。「食料自給率の現状について調べたことをもとに、我が家の食卓改善プランをプレゼンテーションにまとめて保護者に伝える」というミッションを想定しています。

 SABC
思考(食料問題をもとに食卓改善計画を提案する)ゴールにマッチした
情報の洗練
教科目標に応じた
情報の理解
不正確・不十分な
情報の関係づけ
情報の不足や
間違い
自給率低下の要因を貿易・環境・産業・生活を相互に関連づけ、家庭でできることを主張している自給率低下の要因を貿易・環境・産業・生活を相互に関連づけて説明している自給率低下の要因を貿易・環境・産業・生活のいずれかを取り上げているが関連づけられていない自給率低下の要因を誤った情報や誤解に基づいて説明している
表現(プレゼンテーション資料の作成)相手・目的にマッチした表現の工夫
伝えたいことを
適切に表現
意図はあるが
適切ではない表現
意図が不明確・
未完成な表現
相手にどう伝わるかを意識して、資料の選び方や見せ方、順番等を工夫している伝えたい内容にあった資料を適切に選んでいる
グラフや写真をいれているが、伝えたい内容とズレがあったり冗長である
グラフや写真などの資料を使っていない

以下、ルーブリックに関するミニQ&Aです。

  • なぜ4段階?:Aが単元の到達目標のレベルで、一般的な3段階の基準と同じです。Sは到達レベルの「もう1つ上」です。プロジェクト学習の場合、プロジェクトのゴールを意識したこだわりをS基準とすることで、目的意識を明確にすることにつながります。
  • 思考と表現に分ける意義:思考は制作物に込められている内容を、表現はその姿かたちを対象とします。見栄えがしても中身のない制作物や、中身はあっても伝わらない制作物になるのを避けるために2つの観点を設定しました。社会科では単元のねらいが思考の方に、国語科では表現の方を重視するなど、教科や単元によって思考と表現のバランスは異なります。
  • 学習活動カードとルーブリックの関連は?:思考は「整理・分析」で選んだオレンジのカードを、表現はそのまま「表現」カテゴリにある緑色のカード裏面がヒントになります。
  • 書くときのコツは?:「副詞」(とても、やや)や「形容詞」(丁寧な、上手に)、数字(複数、1つだけ・・・)をできるだけ使わないようにしましょう。「とても」なら何がどうなっていると「とても」なのか、「丁寧な」を具体化するとどのような状態なのか、「複数」は単純に数が多ければいいのかどうか問い直すことで児童生徒に求めている思考や表現が一歩具体的になります。

さらにこれらのルーブリックを作成・共有できるウェブサイト「ルーブリックバンク」を開発しました。ルーブリックの閲覧は自由にできますが、新規に作成される場合、本サイト問い合わせのところまでご連絡お願いします。

 成果物のルーブリックが出来てきたら、収集・編集・発信の各場面で指導する「情報活用能力」を検討します(単元ワークシートのク)。発揮=この単元の前に出来ていてほしいこと、育成=この単元で育てたいことです。カードで示した活動について書き込みます。「情報活用能力をカリマネしよう」の目標リストを参考にしてください。カードの裏面を見ると、破線部の下に関連する情報活用能力の目標が書かれています。その中から選ぶと良いでしょう。

  • 「発揮」と「育成」は選んだカード全てについて考えなくても良いです。プロジェクトを実施するにあたって、「これだけは発揮できるか確認しておきたい!」「ここで育成しないと困る!」といったポイントを選びます。教科のねらいと情報活用能力の目標が重なるところは、ぜひ育成の方に入れておきましょう。
  • 目標リストはレベル分けされていますが、校種・学年に合わせなくても良いです。例えば小学校6学年のプロジェクトで下学年のレベルが目標になったり、中学校のレベルを設定することもあり得ます。あくまでプロジェクトの質を高める上で必要な事項を選んでください。

(3)主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善・ICT活用との関連(Design)

 ここまでで探究学習の流れと、そこでつけたい力の分析が終わりました。最後に、単元デザインシートのいちばん下にある、教師の手立てを書き込みます(ケ)。教師の視点で実際に授業をする上で準備しておく、意識して指導すべきこと、設定する学習活動などをメモします。このページ下段にある「指導方略のヒント集」が役に立つでしょう。
 情報活用型プロジェクト学習の考え方に基づいた授業づくりと、主体的・対話的で深い学びとの関係を簡単に解説しておきます。

「主体的な学び」:ミッションが明確であることは子どもたちの意欲を引き出し、持続させる原動力になります。学びの見通しを持つことや、学習過程を自分たちで点検したり、ふりかえったりするといった自己調整に関わる学習活動もプロジェクトを達成するために欠かせません。
「対話的な学び」:集めた情報を整理・分析する場面では班の中で得た情報を比較検討したり、関連を考えたりする際に協働的に学ぶことになります。目的が明確な協働場面をつくることができます。
「深い学び」:情報を整理・分析する際に、教科の見方・考え方を活用します。情報活用型プロジェクト学習の構成は探究の学習過程ですから、問題解決に取り組みながら、課題に対する理解を深めていきます。

 こうした学習過程においてICTは、子どもたちが学ぶ上での情報源を豊かにしたり、たくさんの情報を整理・分析したり、納得いくまで表現の試行錯誤をしやすくしてくれる便利なツールです。学習の記録を残したり、振り返りを促したりするにも有効です。情報活用型プロジェクト学習の流れと「主体的・対話的で深い学び」につながる授業の手立て、ICTの活用方法を「指導方略のヒント集」にまとめてみました。学習活動を具体化し、必要な支援を考える際に活用してみてください。全部で45個、掲載していますがもちろんすべて使う必要はありません。

3.関連する成果の公開等

本研究に関連して学会、雑誌等で報告されているのは、Research mapからご確認ください。

4.協力

本研究はJSPS科研費16K01123「情報活用型アプローチによる「学びの質」ルーブリックバンクの開発」(研究代表者:稲垣忠)の研究成果の一部です。豊田充崇教授(和歌山大学)、後藤康志准教授(新潟大学)、松本章代准教授(東北学院大学)との共同研究です。

本研究は次に示す学校、団体等の協力のもとに進めております(2020年時点。その後も全国の学校、教育センター等でお世話になっております)。感謝申し上げます。